このページの要点
- 変更合意書は、原契約と債務の確認から始め、猶予は免除・放棄・更改(民法513条)ではないこと、原契約は有効に存続することを書く。
- 条件変更は、申出の理由と資料、回答の期限、書面での合意という手続で決める。協議の記録も残す。
- 一部を受け取っても、待っても、残債務を免除したことにはならないという権利の不放棄の条を置く。
- 完済確認書には、着金の確認日、債務と保証債務の消滅、新たな免除・更改ではないという一文を入れる。
結論:猶予と変更は「何を変え、何を変えないか」を書き、完済は「何が消えたか」を書く
貸し借りは、契約書を作って終わりではありません。返済が苦しくなった借主から期限を延ばしてほしいと頼まれる、毎月の返済額を変えてほしいと言われる、予定より早く返したいと申し出がある、そして最後に完済の日が来る。どの場面でも、口頭のやり取りだけで済ませると、後で「延ばしてもらったのだから遅延損害金はないはずだ」「減額に応じてもらった」「もう全部返したはずだ」といった食い違いが生まれます。
アトラス行政書士法人の書類では、返済の猶予には変更合意書を、完済には返済完了確認書を作り、それぞれ「何を変えて何を変えないか」「何が消えて何が残らないか」を条文で確認しています。このページでは、その構成と、条件変更の手続の決め方、一部弁済と権利の不放棄、そして報酬の前払金を後の報酬で精算する書式の考え方を扱います。猶予後の利息と遅延損害金の関係は利息と遅延損害金、保証人の扱いは連帯保証のページもあわせてご覧ください。
変更合意書の組み立て:原契約の確認から始めて、原契約は生きていると締める
事務所で扱った法人間の貸付では、当初の返済期日に返済できなかった借主に対し、貸主が期限を猶予することになりました。そのときに作った金銭消費貸借契約変更合意書は、次の順で組み立てています。
変更合意書の条の順序
- 原契約と債務の確認原契約の日付と貸付額を確認し、借主と保証人が元本・利息・遅延損害金その他の債務が有効に存在することを認める。
- 新しい返済期限と利息新しい期限までに一括で支払うこと、振込の方法、猶予後の利息の率と計算方法。
- 猶予の性質期限の猶予は、債務の免除・権利の放棄・更改ではなく、遅延損害金請求権も放棄していないことを確認する。
- 保証人の加入保証人を当事者に加え、保証の範囲を確認する。
- 期限の利益の喪失猶予後の喪失事由を整理し直す。
- 原契約との関係原契約は有効に存続し、本合意に定めのない事項は原契約による。
- 期日前の返済期限の利益を放棄して繰り上げて返済できること、それによる貸主の損害の賠償を妨げないこと。
三者(貸主・借主・保証人)が署名し、電磁的記録で締結する場合の方法も末尾に書いています。
このうち三つ目の「猶予の性質」は、変更合意書の要です。更改とは、従前の債務の給付の内容について重要な変更をするなど、従前の債務に代えて新たな債務を発生させる契約で、更改があると従前の債務は消滅します(民法513条)。期限の延長を更改と読まれると、元の債務に付いていた保証や約束が一緒に消えたのではないか、という争いになりかねません。変更合意書で「猶予は免除・放棄・更改ではない」と書き、「原契約は有効に存続し、定めのない事項は原契約による」と締めくくるのは、元の契約がそのまま生きていて、変えたのは期限と利息だけだ、ということをはっきりさせるためです。
猶予の合意一般について、注意しておきたい点もあります。期限を延ばしておきながら、猶予した期間についても元の期日の翌日から遅延損害金を課す、という書き方をすると、猶予した期間に「遅延」を観念することになり、条文どうしの説明がつきにくくなります。猶予後の利息と遅延損害金を同時に課すと、両方を合わせた負担が利息と評価され、利息制限法1条の上限との関係も問題になり得ます。猶予の期間は猶予後の利息、新しい期限を過ぎたら遅延損害金、と期間で分けて書くのが分かりやすい設計です。保証の範囲を書き直すときに「現在及び将来負担する一切の債務」という言葉を使うと、根保証と読まれ、個人の保証人なら極度額が必要になる点にも気を付けます(連帯保証)。
条文例第2条(返済方法等) 変更合意書の猶予の項
1借主は貸主に対し、原契約に基づく元本並びに利息その他借主が貸主に対して負担する債務を、令和○年○月○日までに一括して支払う。
2利息は元本に対して年○パーセント(年365日日割計算)とし、借主は元本とともにこれを支払う。
3貸主が借主に対し返済期限を前項の日まで猶予したことは、債務の免除、権利の放棄、債務の更改その他貸主が有する権利に影響を及ぼすものではない。
遅延損害金は「前項の期限の翌日から」と、猶予後の期限を起点に書くと、猶予した期間との関係がはっきりします。
条件変更の手続:申出・理由と資料・回答期限・書面での合意
返済の途中で条件を変えるときの手続を、最初の契約書で決めておくこともできます。事務所が扱った書類の書き方は、次のように分かれます。
条件変更の手続の書き方
| 書き方 | 条文の要点 | 考え方 |
|---|---|---|
| 事前承諾制・承諾義務なし | 借主が返済額・期日・方法を変えたいときは、事前に書面又は電磁的方法で申し出て貸主の承諾を得る。貸主は誠実に協議のうえ検討するが、承諾の義務は負わない。 | 勝手な変更を防ぎつつ、協議の道を残す。 |
| やむを得ない事由の見直し協議 | 重い病気、自然災害、事故などのやむを得ない事由で返済に著しい支障が生じるおそれがあるときは、協議のうえ返済方法・時期・金額を見直すことができる。 | 長期の返済で、借主の事情の変化に備える。 |
| 書面合意の原則 | 本契約の内容の変更は、甲乙間の書面による合意によらなければ効力を生じない。 | 口頭やメッセージでの「いいよ」を変更の合意と扱わない。 |
| 割引・減免なし | 繰上返済による割引、利息の減免、元本の軽減その他の有利な調整は一切適用しない。 | 無利息の貸付で、早く返すことが値引きの交渉にならないようにする。 |
事務所が立替金の契約の下書きを再レビューしたときは、修正版で「貸主は合理的に検討する義務を負う」と改めた点を、交渉の可能性を残す前向きな設計と評価しつつ、「合理的」の中身が抽象的で争点になり得ると指摘しました。そのうえで、変更を申し出るときの理由と証拠(収入の証明、事情の説明など)の提出義務と、貸主が回答する期限を明記するよう提案しています。最初のレビューでは、条件を変えたときは変更履歴(旧条件と新条件)を明示できる形で書面化し、変更後の条件を再契約という形で付記して署名するのが望ましい、とも書きました。
聞き取り票 返済条件の変更を頼まれたとき
- 変更したいのは、期限か、毎月の額か、回数か、利息か。何を変えるかで、変更合意書に書く条が変わります。変えない条件は「原契約による」と書きます。
- 変更を求める理由と、それを示す資料(収入の証明など)はあるか。理由と資料を記録に残しておくと、次の変更の申出のときの判断材料になります。
- 保証人はいるか。保証人にも変更を知らせ、同意をもらえるか。保証人を当事者に加えた合意にしておけば、保証の範囲をめぐる争いを防げます。
- 猶予した期間の利息と、新しい期限を過ぎた後の遅延損害金をどう分けるか。猶予期間に遅延損害金をかける書き方は、条文どうしの説明がつきにくくなります。
- 公正証書にしている債務か。公正証書の内容を変えるには、原則として作り直しが必要です(公正証書)。
期日前に返したいと言われたとき:利息付きの貸付では損害の扱いを決める
猶予とは反対に、予定より早く返したいという申出もあります。期限の利益は債務者のためのものと推定され、債務者は放棄できますが、それによって相手方の利益を害することはできません(民法136条)。消費貸借では、返還の時期を定めた場合に借主が期限前に返して貸主が損害を受けたときは、貸主は賠償を請求できます(民法591条3項)。無利息の貸付なら、早く返されて貸主が損をすることはほとんどありませんが、利息付きの貸付では、期限まで受け取れたはずの利息が問題になり得ます。
事務所の書類では、この扱いが案件ごとに分かれています。法人間の返済猶予の変更合意書では、「借主は第2条にかかわらず期限の利益を放棄し、貸主に対して繰り上げ返済することができる」「前項に基づく返済は、返済期日前に返済を受けたことにより損害を受けた場合における貸主から借主に対する損害賠償請求を妨げない」と、民法の原則どおりに書きました。個人間の利息付きの高額の貸付では、期限前の一括返済を認めたうえで「何らの損害賠償義務を負わない」とし、自動車の分割売買では、期限前の弁済について違約金や繰上弁済手数料その他の追加の金銭を請求しない、としています。無利息の貸付では、利息の清算金も手数料も生じないと書いた例があります。
どれを選ぶかは、貸主が利息をどこまで期待しているかで決まります。損害賠償を求める余地を残すなら、何を損害とするのか(例えば、期限までの利息相当額から運用の利益を差し引いた額)を書いておかないと、実際に請求する段階で計算の根拠が争いになります。借主に早く返してもらうことを歓迎するなら、損害賠償を求めないと明記しておくほうが、繰上返済を促すことにもなります。返済の型ごとの書き方は返済条件の設計で扱っています。
協議と合意の記録:誰と、何で、いつまでに
猶予や変更の話し合いは、電話やメッセージで始まることがほとんどです。けれども、話し合いの途中のやり取りが「合意」なのか「検討中」なのかが曖昧なまま時間が過ぎると、後で「あのときこう言った」という争いになります。法人間の変更合意書では、協議の条に「前項の協議を行う場合、当該協議を行う旨の合意を書面または電磁的記録にて行うものとする」と定め、協議を始めること自体を記録に残す形にしました。
立替金の契約の下書きのレビューでは、協議の条に、協議の方法(書面・メッセージ・電子メールなど)と協議期間の目安(○日以内に回答する義務など)を加えると、より実務的に運用できると指摘しました。再レビューでは、回答の期限を設けた点を評価したうえで、回答を怠ったときの扱いが書かれていないため、無視や放置によるトラブルの種が残ると指摘しています。そして、協議のやり取りを双方が記録して保存する義務を置き、重要な変更や通知は、郵送による書面(記名押印)を併用するか、署名入りの議事録を残すことを勧めました。メッセージアプリだけに頼った運用は、記録の保存や改ざんの防止の点で証拠力が弱くなりやすいからです。
猶予・変更の話し合いで残しておく記録
- 申出を受けた日と、申出の内容(何を、どこまで変えたいか)。
- 変更を求める理由と、それを裏付ける資料(収入の証明など)。
- 回答の期限と、回答をした日・回答の内容。
- 合意した新しい条件と、変えない条件(原契約による部分)。
- 保証人への説明と、保証人の同意の記録。
- 署名した変更合意書(又は電子署名の記録)。
一部を受け取っても、待っても、権利は手放していない
返済が滞りがちな借主から一部だけ受け取ったり、督促を少し待ったりすることは、実務ではよくあります。そのときに、借主から「一部を受け取ったのだから残りは免除された」「待ってくれたのだから期限の利益の喪失は撤回された」と主張されないよう、契約書に権利の不放棄の条を置いておきます。
条文例第9条(一部弁済等と権利の不放棄)
1甲が乙から一部の弁済を受領し、又は乙に対し支払の猶予、督促の留保その他の措置をした場合であっても、これによって甲が残債務を免除若しくは放棄し、又は本契約上の権利を放棄したものとは解されない。甲が本契約上の権利を行使せず、又はその行使を遅延した事実があっても、同様とする。
法人から個人への貸付の契約書の条です。作成前ヒヤリングシートでは、この条を「一部返済があっても残債務を放棄したことにはならない旨の確認」として、採否を選んでもらっています。
法人間の変更合意書でも、「貸主による返済期限の猶予その他の措置は、遅延損害金請求権その他貸主の権利を放棄するものではない」と、遅延損害金の条の中で重ねて確認しています。待つことと諦めることは違う、ということを、条文の言葉で残しておくためです。債務弁済契約書では、借主が正当な理由で遅れる場合に事前又は速やかに事情を説明でき、債権者は合理的な範囲で協議・配慮する、ただしこれで履行義務が免除されるものではない、という条も置いていました。配慮の余地を示しながら、義務は残ることを明らかにする書き方です。
完済確認書:着金確認日・債務の消滅・保証債務の消滅・新たな免除ではない一文
完済の場面で作る返済完了確認書兼債権債務消滅確認書は、短い書面ですが、項目の一つ一つに意味があります。事務所で扱った法人間の貸付の確認書の構成は、次のとおりです。
返済完了確認書の項目
- 原契約と変更合意書を日付で特定し、いずれも有効に成立し存続していたこと、債務の内容に相違がないことを確認する。
- 借主が支払った日と合計額、貸主がその支払について着金を確認した日を、別々に書く。
- 元本・約定利息・遅延損害金その他一切の債務が完全に履行され、すべて消滅したことを相互に確認し、貸主が今後一切請求しないことを確認する。
- 主たる債務の消滅に伴い、保証人の連帯保証債務もすべて当然に消滅したこと、貸主が保証人に一切の請求権を持たないことを確認する。
- 本確認書に定めるもののほか、原契約等に関して互いに債権債務がないことを確認する清算条項。
- この確認は、すでに消滅した権利関係を確認する趣旨であり、新たな債務免除又は更改を行うものではない、という一文。
- 電磁的記録で締結する場合は、電磁的記録を原本とし、印刷したものはその写しとすること。
最後から二つ目の一文には、理由があります。完済確認書に「一切の債権を行使しない」「権利を放棄する」と書くと、まだ残っていた債務を新たに免除したと読まれる余地が出ます。そうなると、完済の事実そのものではなく、免除という新しい合意があったことになり、税務上や会計上の扱いが変わったり、もし計算に誤りがあったときに「免除したのだから請求できない」と言われたりします。「すでに消えた権利を確認するだけ」と書いておけば、確認書の性質がはっきりします。
個人間の債務弁済契約書でも、借主が残りの全額を繰り上げて返済したときは、債権者が速やかにその旨を通知し、必要に応じて書面やメッセージで債務の消滅を確認する、と定めていました。完済の確認を契約書の中で予定しておくと、最後の手続を忘れずに済みます。返済の証拠の残し方は交付の証拠と債務額の確定でも扱っています。
報酬の前払金を後の報酬で精算する書式:貸付と評価されないために
業務委託の報酬を先に払い、後の報酬から差し引いて精算する「前払金」の仕組みは、貸し借りと似た形をとります。事務所で扱った業務委託の受託者向けの前払金申請書兼精算同意書は、申請(申請日・申請理由・申請金額)、委託者の審査と承認(承認額・手数料率・手数料額・受取額・振込予定日)、前払金の性質、精算の方法(委託報酬からの控除、精算開始月、一括控除か分割控除か、控除しきれない残りは翌々月以降に繰り越し)、相殺への事前の同意、契約の終了などの場合の返還、という構成でした。前払金の性質の条では、運送業務委託契約に基づき将来発生する委託報酬を先に支払うもので、消費貸借その他金銭の貸付を目的とするものではない、と書いています。
前払金が本当に将来の報酬の先払いにとどまるなら、貸付ではありません。一般に、前払金の書式に、手数料、期限の利益の喪失、即時の返還義務、高い率の遅延損害金、回収費用の負担といった貸付と同じ部品を重ねていくほど、形の上では貸付と同じ仕組みに近づき、「消費貸借ではない」という一文だけでは、実態として貸付(手数料は利息)と評価される余地が広がります。前払金の書式を作るときは、次の点を確かめておきます。
前払金の書式で確かめること
- 前払金の上限が、すでに発生した報酬か、近く発生することが確実な報酬の範囲に収まっているか。
- 手数料を取るなら、その性質(事務の対価)と額が、貸付と評価された場合でも利息制限法の上限の範囲に収まるか。
- 精算は報酬からの控除を原則とし、契約が終わったときの未精算残額の返還の方法と期限が現実的か。
- 相殺の同意(民法505条の相殺を、弁済期の到来を問わずできるとする特約)の範囲が、前払金に関するものに限られているか。
- 業務委託契約の本体の定めと、前払金の書式の定めが矛盾していないか。
契約が終わったときの扱いも、言葉の選び方で性質が変わります。業務委託契約の終了や所在不明を事由に「当然に期限の利益を失い、未精算残額全額について直ちに返還義務を負う」と書くと、性質の条で否定した貸付の形に近づきます。終了時の扱いは「未精算残額を最終の報酬から控除し、なお残る額は終了日から○日以内に返還する」というように、精算の言葉で書くほうが、書式全体の性質と合います。期限の利益の喪失の方式は期限の利益の喪失で扱います。
よくあるご質問
返済を待ってあげるとき、書面は必要ですか。
書面にしておくことを強くおすすめします。新しい期限、猶予後の利息、猶予は免除や放棄ではないこと、原契約はそのまま有効であることを書き、保証人がいれば保証人にも署名してもらいます。
完済したら、何を渡せばよいですか。
支払日と合計額、着金を確認した日、債務がすべて消えたこと、保証人の保証債務も消えたこと、今後請求しないこと、を確認する返済完了確認書を作り、双方で保管します。
返済額を減らす合意は、どう書けばよいですか。
変更前と変更後の条件を並べて書き、変えない条件は原契約によることを明記します。減額が残りの債務の免除に当たるのか、毎月の額を減らして回数を増やすだけなのかを、はっきり書き分けます。
一部だけ受け取ったら、残りを免除したことになりますか。
なりません。ただ、後で争われないよう、一部の弁済を受け取ったり支払を猶予したりしても残債務を免除・放棄したことにはならない、という権利の不放棄の条を契約書に置いておくと安心です。
報酬の前払いを書面にするとき、何に気を付ければよいですか。
将来の報酬の先払いであることを明確にし、精算は報酬からの控除で行う形にします。手数料・期限の利益の喪失・遅延損害金などをそろえると、実態として貸付と評価されるおそれがあるので、終了時の扱いも精算の言葉で書きます。
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