このページの要点
- 方式は、1回で当然喪失、翌月1日に未入金で喪失、1回+催告、回数、滞納額、期間+通知、割賦販売の20日以上の書面催告の7つに分かれる。
- 払い直せる事由は請求喪失に、払い直しでは解決しない事由(倒産・所在不明など)は当然喪失に振り分ける。
- 所在不明・連絡不能は、郵便の不達や応答のない日数など、記録で証明できる条件にする。
- 請求や催告が届くよう、届出義務とみなし到達の条を置く。個人の保証人には喪失から2か月以内の通知が要る(民法458条の3)。
結論:何回・いくら遅れたら、催告を要するか要しないかで、一括請求できるかを決める
分割で返す約束をすると、借主は、各回の期日までは残りを払わなくてよい、という利益を持ちます。これを期限の利益と言います。民法は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定し(民法136条1項)、債務者が破産手続開始の決定を受けたときなど一定の場合には、期限の利益を主張できないとしています(民法137条)。ただ、民法の定める場面だけでは、返済が数回遅れた程度では一括で請求できません。そこで、契約で「こういう事由があれば期限の利益を失い、残りを一括で払う」と決めておくのが、期限の利益喪失条項です。
アトラス行政書士法人の書類を並べると、この条項の方式は大きく7つに分かれます。1回遅れただけで当然に失う方式から、20日以上の期間を定めた書面の催告を経なければならない方式まで、借主への厳しさに大きな差があります。このページでは、その7つを比べ、事務所がレビューで指摘してきた「争いになりやすい事由」と「客観的な基準への置き換え」を紹介します。遅延損害金の利率は利息と遅延損害金、返済日の決め方は返済条件の設計で扱います。
事務所の書類に見る7つの方式
期限の利益を失わせる方式
- 11回の遅れで当然に失う支払を1回でも遅滞したとき、通知や催告を要せず当然に期限の利益を失う。「その一部の支払があった場合を含む」と明記した例や、保証人に生じた事由も含める例がある。最も厳しい。法人間の貸付や、解決金の分割で使われる。わずかな不足でも働くので、振込手数料の負担などを明確にしておく。
- 2翌月1日に入金がなければ当然に失う返済期限までに約定の返済がなく、翌月1日の時点でも入金が確認できないときに当然に失う。月末払いの個人間の貸付で使った。月をまたいだかどうかで判断するので、起点が明確。
- 31回の遅れ+相当期間を定めた催告分割金の支払を1回でも怠り、相当の期間を定めて催告したのに期間内に払わないとき、請求により失う。倒産などは別の項で当然に失う。法人から個人への貸付で採用。借主に払い直す機会を与えるので、争われにくい。
- 4遅れの回数で失う支払の遅れが通算3回以上(依頼者の修正で5回以上)、分割金を2回分以上怠ったとき、など。ヒヤリングでは「2回分以上の滞納」を推奨した例がある。通算か連続かを書き分ける。
- 5滞納額で失う分割金の支払を怠り、その額が分割金2回分に相当する金額に達したときに当然に失う。一部だけ払う状態が続く場合も拾える。
- 6遅れの期間+通知で失ういずれかの返済を返済期日から1か月以上怠ったとき、記録可能な方法で通知し、その通知が届いた時点で失う。3か月以上連続して滞納したとき、とした例もある。通知の到達で失う時点を明確にできる。
- 720日以上の書面催告を経て失う事業者が指定商品・指定役務の代金を割賦販売で受け取る場合、20日以上の相当な期間を定めて書面で催告し、その期間内に払われないときでなければ、残りを一括で請求できない(割賦販売法5条1項。購入者が営業のために結ぶ契約などは同法8条で除かれる)。法律で決まっている方式。これに反する特約は無効なので(同条2項)、該当する取引では、この手続より購入者に不利な方式は選べない。
7つのうち、どれを選ぶかは、貸付の性質と当事者の関係で決まります。法人どうしの貸付で、返済をすでに一度猶予した後の合意なら、1回の遅れで当然に失う方式も合理的です。個人間の分割返済で、借主の生活が不安定なら、催告を挟む方式や回数の方式のほうが、実際に使える条項になります。厳しすぎる条項は、署名の段階で借主をためらわせるだけでなく、いざ使うときに「信義に反する」と争われる材料にもなります。
1回の遅れで当然に失う方式を選ぶときは、「遅れ」の定義もあわせて書きます。解決金の分割払いでは、「分割金の支払を1回でも怠ったとき(支払期日までにその期日に支払うべき分割金の全額の支払がなかったときをいい、その一部の支払があった場合を含む。)」と括弧書きで定義しました。一部だけ払って「払ってはいる」と主張される場面を防ぐためです。個人間の高額の貸付では、借主だけでなく連帯保証人に差押えや破産手続の申立てなどの事由が生じたときにも、借主が期限の利益を失う設計にし、住所の移転や勤務先の変更の届出の義務も保証人に課していました。保証人の資力が回収の支えになっている貸付では、保証人の側の事情も喪失の事由に入れておく考え方です。
「当然に失う」と「請求により失う」:条文の書き分け
期限の利益喪失条項には、事由が生じた時点で自動的に失う「当然喪失」と、貸主が請求や通知をして初めて失う「請求喪失」があります。当然喪失は、貸主が何もしなくても一括請求の状態になるので強力ですが、借主がいつ期限の利益を失ったのかを意識していないまま遅延損害金がふくらむこともあります。請求喪失は、貸主が通知を送る手間がかかる反面、失った時点が書面ではっきりします。
事務所で扱った法人から個人への貸付では、二つを項で分けています。第1項は、分割金の支払を1回でも怠ったとき、又はその他の条項に違反したときで、相当の期間を定めた催告をしても是正しない場合に、甲の請求により期限の利益を失う、としました。第2項は、支払の停止、差押えや仮差押え、破産手続開始の申立て、所在不明、重大な虚偽の申告、変更の通知を怠って所在や連絡先を把握できなくなったとき、死亡や後見開始の審判などで、何らの通知又は催告を要せず当然に失う、としています。支払の遅れのように借主が払い直せる事由は請求喪失に、払い直しでは解決しない事由は当然喪失に振り分ける考え方です。
条文例第6条(期限の利益の喪失) 請求喪失と当然喪失を分ける型
1乙が次の各号のいずれかに該当し、甲が相当の期間を定めて催告したにもかかわらず、その期間内にこれを是正しないときは、乙は、甲の請求により、本件貸付金に係る債務の期限の利益を失い、残債務の全額を直ちに一括して甲に支払う。(1)各回の分割返済金の支払を1回でも怠ったとき。(2)本契約に定めるその他の条項の一に違反したとき。
2乙が次の各号のいずれかに該当したときは、乙は、甲からの何らの通知又は催告を要することなく当然に本件貸付金に係る債務の期限の利益を失い、残債務の全額を直ちに一括して甲に支払う。(1)支払を停止したとき。(2)乙の財産について、仮差押え、仮処分、差押え、強制執行、担保権の実行又は競売の申立てを受けたとき。(3)破産手続開始、民事再生手続開始その他これらに類する倒産手続開始の申立てがあったとき。(4)乙が所在不明となり、又は甲からの通知若しくは連絡が相当期間にわたり到達不能となったとき。(5)第7条に定める変更の通知を怠り、甲において乙の所在又は連絡先を把握できなくなったとき。
実際の条文では、第2項に租税公課の滞納、申告事項の重大な虚偽、死亡・後見開始等の審判、資産・信用の重大な変化なども号で並べています。
同じ契約の中で、催告を要する定めと要しない定めが、同じ事由について重なっていないかも確かめます。返済条件の条に「相当の催告期間を経た後、期限の利益を喪失させる旨の通知により一括請求できる」と書き、期限の利益喪失の条に「何らの催告を要することなく、支払の遅延が発生したときは期限の利益を失う」と書くと、どちらの条が適用されるのかが分からず、借主から有利な方を主張されることになります。返済条件の条と期限の利益喪失の条を別々に書き進めると起きやすい重なりです。支払の遅れについて催告を挟むなら、一方の条にまとめます。
争いになりやすい事由と、客観的な基準への置き換え
期限の利益喪失の事由には、「支払を怠ったとき」のように事実で判断できるものと、「信用状態が著しく悪化したとき」「夜逃げしたとき」のように評価が入るものがあります。評価の入る事由は、条文としては幅広く拾えるように見えますが、実際に使おうとすると、その評価が正しいかどうかで争いになります。
事務所が立替金の契約の下書きをレビューしたときは、「転居秘匿・夜逃げ」「連絡不能」といった事由について、主観的な判断に陥りやすく将来の争点になると指摘し、「連絡不能が30日連続」「通知郵便が不達になってから一定期間経過」のような客観的な基準を併記するよう提案しました。再レビューでは、修正された「LINEおよび郵送で通知して7日以内に返信がない」という手続についても、借主が通知を受け取っていない、受け取ったが返信しなかっただけだ、という争いの余地を指摘し、「郵便が不達となり、その後30日以上経過」「送達証明の取得後一定期間経過」といった、証明できる条件を勧めています。
事務所の改訂例 評価の入る事由を、証明できる条件に置き換える(レビューでの提案)
所在の不明
理由「夜逃げ」かどうかは評価で争われます。郵便の不達と経過日数は記録で証明できます。
連絡不能
理由期間を数字で区切り、連絡の手段を特定します。
各号の前に「甲が乙との信頼関係が著しく破壊されたと合理的に判断した場合には」という前置きを付ける書き方も見かけます。これでは、各号の事由に当たるうえに貸主の判断も要件になり、借主から「信頼関係は壊れていない」と争われる余地が増えます。公正証書にした場合には、執行文を付ける段階で条件の成就を客観的に確かめにくくもなります。各号の事由に当たれば失う、という形にそろえるほうが、条項として働きます。
回数の事由では、「通算」なのか「連続」なのかを必ず書き分けます。「支払期日までに返済を行わないことが通算して5回以上となったとき」は、遅れては払い、遅れては払い、を繰り返す状態を拾えます。「3か月以上連続して滞納したとき」は、一度でも払えば数え直しになります。どちらを選ぶかで、条項の働き方がまったく変わります。
通知が届かないときに備える:届出の義務とみなし到達
請求により期限の利益を失わせる方式や、催告を挟む方式では、貸主の通知が借主に届くことが前提になります。意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じ(民法97条1項)、相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(同条2項)。借主が引っ越して新しい住所を知らせなければ、催告も請求も届かず、条項が働かなくなります。
事務所の法人から個人への貸付では、期限の利益喪失の条のすぐ後に「届出事項の変更通知義務及び通知の到達」の条を置き、氏名・住所・電話番号・電子メールアドレス・勤務先などに変更があれば遅滞なく通知すること、通知を怠ったために甲の通知が延着し又は到達しなかったときは、通常到達すべきであったときに到達したものとみなすこと、最後に届け出られた住所や電子メールアドレスにあてて発したときも同様とすること、を定めました。個人間の債務弁済契約では、変更があった日から5営業日以内の通知を求め、通知を怠ったことで相手方に生じた不利益は通知を怠った当事者の負担とすること、この届出の定めは契約の終了後に生じる債権債務の履行や紛争の処理にも適用されること、まで書いています。立替金の契約のレビューでは、通知義務だけでは住民票を移さない借主に対応できないとして、住民票の写しの提出や年1回以上の住所確認を加えることを提案しました。期限の利益喪失の事由に「変更の通知を怠り、所在又は連絡先を把握できなくなったとき」を入れるのは、届出の義務と組み合わせてこそ意味を持ちます。
月末払いの個人間の貸付では、翌月1日の時点で入金がなければ当然に期限の利益を失うとしたうえで、別に「催告」の条を置き、返済がなければ電話・書面・電子メール・SMSなどで支払を催告できること、催告をしたことで当然喪失による権利の行使が妨げられないことを確認しています。催告をしたら喪失の効果がなかったことになるのでは、と借主に誤解されないようにするための一文です。
期限の利益を失ったあとの請求と、関連する条項との整合
期限の利益を失わせたら、何を一括で請求できるのかも書いておきます。事務所の書類では、「残債務の全額を直ちに一括して支払う」「本件解決金の残額及び遅延損害金を直ちに一括して支払う」「当該時点における未払元本及び未払損害金の全額を即時に履行する」など、請求できる範囲を条文で特定しています。遅延損害金の起算日についても、「支払を怠った金額に対する支払期日(期限の利益を失ったことにより直ちに支払うべきこととなった金額については、期限の利益を失った日)の翌日から」と書いた例があります。期限の利益を失うまでは期日が来ていなかった残りの分割金について、遅延損害金がいつから付くのかを明確にするためです。
保証人がいる場合には、主たる債務者が期限の利益を失ったことを保証人に知らせる手続も意識します。民法458条の3は、個人の保証人に対して、債権者が期限の利益の喪失を知った時から2か月以内に通知しなければならず、通知しなかったときは、喪失の時から通知までに生じた遅延損害金(期限の利益を失わなくても生じたものを除きます)を保証人に請求できない、としています。保証の条は連帯保証のページで扱います。
返済期日を定めない貸付に、期限の利益喪失条項を置くときも注意が要ります。期日がなければ、「支払を一回でも遅滞したとき」がいつなのかが決まりません。期日を定めない設計にするなら、請求から返還までの日数を決め、その日を過ぎたことを遅れの起点にするなど、条項が働く場面を作っておきます(借用書と金銭消費貸借契約書)。
分割払いの代金・解決金・前払金でも同じ考え方か
期限の利益喪失条項は、貸金以外の支払約束にも置かれます。解決金の分割払いでは、1回の遅れ(一部の支払を含む)で当然に失う方式、1回の遅れ+催告の方式、滞納額が分割金2回分に達したら当然に失う方式が並んでいます(解決金・示談金の支払条項)。所有権留保付きの自動車の分割売買では、分割金の支払を怠ったとき、所在不明、無断での売却や担保設定、任意保険の加入義務違反などを事由に並べ、解除と車両の返還、換価による精算の順序まで続けて定めています。
ただし、事業者が指定商品や指定役務の代金を割賦販売の方法で受け取る場合には、先に見たとおり割賦販売法5条1項の書面催告が必要で(同法8条の適用除外に当たる場合を除きます)、1回の遅れで当然に失う条項は、その限りで効力を持ちません。講座の代金を事業者自身が分割で受け取る契約で、1回でも遅れたら当然に期限の利益を失う、と書いたままの書類を見かけることがありますが、取引が割賦販売に当たるかどうかを先に確かめ、当たるなら催告の手続を条文に組み込みます。
報酬の前払金を後の報酬から差し引いて精算する書式に、期限の利益喪失条項を置くかどうかも考えどころです。前払金は貸付ではない、と性質を書いた書式に、契約の終了や所在不明などで「当然に期限の利益を失い、未精算残額全額について直ちに返還義務を負う」という貸付と同じ形の条を置くと、かえって貸付と評価される材料になり得ます。前払金の書き方は返済猶予・条件変更・完済確認のページで扱います。
聞き取り票 期限の利益喪失条項を決める前に
- 1回の遅れで失わせるか、催告を挟むか、回数・金額・期間で区切るか。借主への厳しさと、実際に使えるかどうかのバランスで選びます。ヒヤリングで「2回分以上の滞納」を推奨した例もあります。
- 当然に失わせるか、請求・通知によって失わせるか。失った時点を書面で明確にしたいなら、請求喪失や通知の到達で失う方式が向きます。
- 所在不明・連絡不能を事由にするなら、何日・どの手段で判断するか。評価ではなく、郵便の不達や応答のない日数など、記録で証明できる条件にします。
- 取引は割賦販売に当たらないか。当たるなら、20日以上の書面催告(割賦販売法5条1項)が必要です。
- 保証人はいるか。個人か法人か。個人の保証人には、期限の利益の喪失を2か月以内に通知する必要があります(民法458条の3)。
よくあるご質問
1回遅れただけで、残りを全額請求してよいですか。
契約に「1回でも遅滞したときは期限の利益を失う」と定めていれば、その条項に従って請求できます。定めがなければ、民法137条の場面を除き、遅れた回の分しか請求できません。厳しい条項は争われる材料にもなるので、催告を挟む方式や回数の方式も検討します。
「当然に失う」と「請求により失う」は何が違いますか。
当然に失う方式は、事由が生じた時点で自動的に一括請求できる状態になります。請求により失う方式は、貸主が請求や通知をして初めて失います。後者は手間がかかる反面、失った時点が書面ではっきりします。
連絡が取れなくなったことを、期限の利益喪失の事由にできますか。
できますが、「連絡不能」とだけ書くと、本当に連絡が取れなかったのかで争われます。郵便が不達になってから30日以上経過した、書面と電子メールの連絡に30日以上応答がない、など記録で証明できる条件にします。
分割払いの講座代金でも同じ条項を使えますか。
事業者が指定役務の代金を2か月以上・3回以上に分けて受け取る割賦販売に当たる場合は、20日以上の相当な期間を定めた書面の催告を経なければ残りを一括請求できません(割賦販売法5条1項)。これに反する特約は無効です(同条2項)。受講者が営業のために結ぶ契約など、同法8条で適用が除かれる場合もあります。
保証人にも、期限の利益を失ったことを知らせる必要がありますか。
保証人が個人なら、債権者は期限の利益の喪失を知った時から2か月以内に通知しなければなりません(民法458条の3)。通知しないと、その間に生じた遅延損害金の一部を保証人に請求できなくなります。
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